短編 | ナノ


▼ 秋伏



※秋山がサイコメトラー。





俺が人と違う何かを持っているかもしれないと自覚しはじめたのは物心ついてからすぐのことだった。 きっかけは5歳の時、飲んでいた飲み物をうっかりこぼしてしまったときに、液体に触れた瞬間、 俺の見覚えのない光景がまるで無声映画が凝縮されたかのようにザァ、っと広がりそれに恐怖したことからだった。液体から離れるとそれはもう見 えなくなったが、俺はその現象がなんなのかわからなくて困惑した。
後にこの現象について調べたらしい母に教えられたのは、サイコメトリーという力のことだった。サイコメトリーとは、大まかにいえば液体や物体に触れて、それに関する記憶を共有し見る事が出来る力らしく、ストレインとは違うものらしい。 その時はまだ物体に触れても何も起きなかったが、年を重ねていく事に見えるようになり、10歳になる頃には見たくなくても触れるだけで見えてしまうようになった。

見たくないものまで見えてしまい、それがすごく俺の良心を苦しめた。人と握手するだけでそ の人の過去が見えてしまったり、信号機の歩行者 用のボタンを押すだけで誰か知らない人の記憶が流れ込んで来たり、覗き見をしているようなその感覚が気持ち悪くて、出来るだけ見ないようにし、 忘れるようにしていたがそれはいつまでたっても慣れなかった。 それから俺は手袋をはめるようになった。最初からこうすればよかったのだ。他人にはこの力について話していないため少々驚かれたが、皮膚の病気なのだと言い訳すると納得してくれた。嘘をつ くのは好きではないが、仕方なかった。

それから随分と時間が経ち、気づけば24歳になっ ていた。相変わらずこの力は弛緩することなく俺を悩ませていた。手袋をしているとはいえ、素肌で触れた瞬間また流れ込んでくる。一生付き合わないと行けないのかと思うと溜め息が漏れ出した。


セプター4での仕事に慣れ、小隊長を任されるくらいになって地道に頑張り、特に何事もなくこの力について誰にバレることもなく過ごしていたある日のこと、組織改編の知らせが届いた。特務隊へ所属することになり、室長直属の部下として働くことになった。

「なぁ、秋山知ってるか!?特務隊って情報課か らも1人配属されんだってよ!」
「知ってるよ。俺たちの上司になる人だろ。」

淡島副長の話をきちんと聞いていなかったらしい同僚の道明寺が慌てながら俺に話しかけてきた。この間副長がその話をしていた。その時確か道明寺は俯いていて器用に立ちながら寝てるのだろうなとは思っていたが起こさなかった。たまには こっぴどく副長に叱責されるべきだあいつは、と加茂に言われたからであるが。

「秋山は何も思わねーのかよ!?小隊長の俺ら差し置いてのNo.3だぜ!しかも19歳で吠舞羅から来たやつとかさ…なーんか納得いかねーよ …」
「室長が決めたことだろ。その人にそれだけの実力があるってことなんだろう。認めないわけには いかないだろ。」
「…秋山は相変わらず真面目だなぁー。ま、そんな とこも好きだぜ!」
「ちょ、やめろキモい」
「キモいって!ひどい!」

そんな会話をしてから三日くらい経っただろう か、噂の情報課からの上司が宗像室長から紹介された。俺より幾分背が高そうだが猫背なのだろうか、背を丸めて歩いているため同じくらいに見える。酷く肌の色が白く、なんだか触ると冷たそうだ。

「情報課から来ました…伏見猿比古です…よろしく」

言葉とは裏腹に宜しくする気が全くない表情に言葉のトーン。太い黒縁の眼鏡がなんだか他人を拒絶しているように見えた。それに対して憤りを声には出さないが何故かお互いの太股を殴り合う道明寺と日高。弁財や加茂もいつもより眉間に皺を寄せていて口に出さずも道明寺達と同じ事を考えているのだろう。まあ俺も正直あまりいい印象は抱かなかったが。 室長が言うなら俺は従うだけだ。

だが俺達の考えが改めさせられたのは直ぐだっ た。その人はあまりにも出来すぎていて、本当に あの無能の集まりのような場所にいたのかと疑問に思うほどの情報処理の早さ、支持の的確さ、あらゆる計算は決して間違わないしデスクワークは 完璧と行っても過言ではなかった。 そのチートぶりはデスクワークだけに留まらず、 戦闘に関しても凄いとしか言いようのないものだった。あの細い手足のどこにそんな力があるんだ、といいたくなるような足運びと剣の腕前、リズムの読めない動き。いつの間にか非難する言葉を口に出す者は少なくなっていて、流石に非の打ち所の無さに日高は口を閉じた。道明寺は更にうるさくなったが。
そして俺は、あろうことか伏見さんのことを好きになってしまったのであった。


「伏見さん、コーヒー入れましょうか?」 「ああ、頼む」

特務隊に配属されてからいつの間にかコーヒーを入れる役割が何故か俺になっていた。自分が飲みたいな、と思ったときに伏見さんに入れるかどうか聞きそれを聞いた道明寺が入れてくれと頼み、 皆便乗して頼むというのが常で、最初は伏見さん以外は自分で入れろと言っていたがもう慣れてし まった。

今日も例外ではなく伏見さんに聞き、道明寺が俺も!と便乗し飲みたい人が声を重ねていく。最初は分からなかったが今では聞き分けることができるくらいなのだから慣れとは怖いものだ。

コーヒーを人数分入れ、トレーに乗せて初めに伏見さんに持っていく。それを見ることなく伏見さんが受け取ろうとした時、俺と伏見さんの手が触れた。

ーー瞬間、久しく見ていなかった光景がザア アァ、と広がる。これは正しく他人のモノ。

「な………でだよ猿……意味わか…んねえ よ…」ーーーーーー「伏見も伏見なり…に考えがあ るんや」ーーーー「俺は伏見が決…めたなら止めな い」ーー「なんでだよ美咲……なんで俺を見ないん だなんで俺の気持ち知ろうともわかろうともして くれないんだよ美咲美咲美咲美咲美咲美 咲」ーーーーーー。

「ーーーっ!!」

「…秋山?どうした?」

バッと避けるように手を退けると、怪訝な顔をされた。だが今構っていられる余裕はない。

「あ、いえ、スミマセンなんでも、ないです」 「ちょーーーーっおい!?」

平謝りだけして特務室から出た。その時後ろから伏見さんの呼び止める声が聞こえたがそれどころではない。

なんで。今まで手袋で過ごしても見えることは無かったのに。柄にもなく少し混乱してしまい、一 旦落ち着こうと喫煙所に入りそこのベンチに腰掛けた。

「……はぁ」

あれから少し時間を置いて仕事に戻った。伏見さんにはきちんと「すみません、仕事投げ出してしまって」と謝りきちんと今日中にやることはやっ たのだが、何か言いたそうな顔をしながら何も言う事は無かった。それから、伏見さんを少し避けるようになってしまっていた。自分を保つために。



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